『クラッシュ』
『クラッシュ』(1996年)を観た。デヴィッド・クローネンバーグ監督。出演はジェームズ・スペイダー、ホリー・ハンター、イライアス・コティーズ、デボラ・アンガーほか。ある男が、自分が巻き込まれた事故をきっかけに、自動車衝突がもつ魅力にとりつかれた奇妙な人びとと出会い、みずからもその不思議な魔力にはまりこんでゆく、というストーリー。
だがストーリー展開はさほど重視されず、もっぱらイメージの提示に力が入れられている。自動車事故を性的エネルギーの解放とみなしつつ、事故がもたらす衝撃、損壊した車体、身体の損傷、身体と無機物の融合、等々のイメージが、性的なニュアンスを帯びたかたちで、つぎつぎと並べられてゆく。
歴史上の有名人が起こした致命的な事故を再現しようとする、不思議な男。彼は、自動車事故にまつわる記事を収集し、衝突シーンをおさめたビデオを眺め、カメラをたずさえて事故現場に出かけ、恍惚とした表情で事故車や、怪我をした、または死亡した被害者の姿を、フィルムに定着させてゆく。
その男の彼女で、過去の事故のために足に補助具を装着している女は、ぎくしゃくと歩くたびに金属の硬質な音を響かせるのだが、彼女は、伸びやかでしなやかな身体を誇る、通常のヒロインとは正反対の、無機的なフェティシズムにいろどられた、独特のセックスアピールをそなえている。
彼らは無機的な機械とみずからの身体を、事故の衝撃のもとで融けあわせることに最高の性的興奮をおぼえるのだが、ここに示されている性のありようは、フロイトのいう死の欲動を想起させる、不毛かつ強迫的な性の様態にほかならない。
もともとはバラードの原作であり、多分に観念的であるにすぎないそうした性の次元を、冷静に描写するような態度で、具体的なイメージとして開示してみせる点に、クローネンバーグ監督の凄さを感じた。


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